観音経講話 (講談社学術文庫)

観音経講話 (講談社学術文庫) の詳細

私は真言密教系の在家修行を35年続けたが、そこでの教学で取り上げられた漢訳阿含経に何故か強く惹かれるものがあった。釈尊の息吹を感じたのである。しかし、その漢訳阿含経を繰り返して読めば読むほど、釈尊の教法の真義が曖昧な表現に霞んでしまうもどかしさを感じていた。やがてパーリ仏典・相応部経典に科学的に説かれた四念処法の説明を発見した。そこで釈尊が説いているのは、「阿羅漢になること」であり、「ブッダになること」であった。やがて、パーリ仏典・律蔵「大品」の仏伝に四念処法の極意を読み取ることが出来た。そうした経験に立てば、本書の文章は次のように理解できる。（１）「観世音菩薩は正法明如来である」（p.12）という文章は、「釈尊は正法（＝四聖諦＋三十七菩提分法）を明確に示したブッダである。」という史実に基づいていると理解すべきである。そうすれば、（２）「観音経の狙いは、観音さんになりきることである。」（p.26）という文章が、「釈尊の狙いは、誰もが釈尊のようなブッダ（阿羅漢）の境涯になりきることである。」という史実に基づいていると理解できる。私もかつては毎日の勤行で「観世音菩薩普門品第二十五」偈を唱えていた。その普門品偈が日本の大衆に及ぼした様子は『今昔物語』に興味深く描かれている。しかし1300年近い時を経て、未だに昔の発想で大乗経典を受け入れるのでは、釈尊の誓願に背くことになる。歴史的な文献として大乗仏典の学問は続くであろうが、人類の進化を促す大乗経典の役目は終えつつある。釈尊の真の教法が姿を現せば、21世紀の人類を導く指針となるであろう。それを観音経から感じ取らねばならない。