自己愛の障害―診断的、臨床的、経験的意義

自己愛の障害―診断的、臨床的、経験的意義 の詳細

タイトル通り、2019年の現時点においても自己愛性人格障害はじめ自己愛障害を理解するのに最良の書の一つであるのに疑いの余地は無い。コフート、カーンバーグ、ギャバードやミロンなど精神分析フロイト派の名だたる後継者たちの自己愛理論をまとめ統合を目指すために書かれた本。あえて欠点をあげれば、自己愛性人格障害の理解にはユング派の分析心理学の知識も有用かつ必須だけど、本書はフロイト派の後継者たちの理論を纏めたものであるからユング派の見解は本書に出てこないこと。もう一つは全体的にナルシシズムの病的肥大の最大要因である心的外傷という立脚点に立った視点が欠けていること、あと本書は原著の全訳ではないことである。心的外傷という視点に関しては、本書の第13章が丸ごとPTSD研究で名高いヘンリー・クリスタルの寄稿によるものとなっており、日本語訳でクリスタルの文章が読めるのも、心的外傷の視点から自己愛障害とアレキシサイミア（失感情症）について論じたものを読めるのも一般人にとっては大変貴重だと思う。トラウマ、PTSDを勉強されてる方は目を通すことを薦めたい。心的外傷とナルシシズムって切っても切りようがない物ですから。とりあえず本書は自己愛性人格障害の理解には最良の一冊。ネットぐぐればモラハラ自己愛憎しで罵詈雑言が吹き荒れてる掲示板やまとめサイト、個人ブログがあったりするけど、本書とか読めば如何にそういうとこが偏った知識で憎悪と偏見に満ちた書かれ方をしているかってのも判ってくると思います。ネットの情報だけで理解しようとかしても無理な話ですよ、ほんと。