植物はおいしい (ちくま新書)

植物はおいしい (ちくま新書) の詳細

本書の趣旨は、タイトルが些か抽象的ながらこれを良く現している。『おいしい』植物、具体的には身近な野菜・果物類を中心として、生物学的・化学的に解説、それよりして生理学的即ち人間生活上の健康的側面、また植物進化的な側面等まで解説されたもので、優れて実証的かつ帰納的である。著者の科学（植物学）者としての姿勢が明確に窺えて、好感の持てる筆致・構成であると思う。構成は第１～８章までで、春夏秋冬毎の植物（野菜・果物）、米、新品種（栗・落花生・単為結実性ほか）、香り、認知症予防、以上の８個のトピックに加え、「おわりに」で「植物」との分類の当否は別論としての「キノコ」のトピックを別立てとして、実質的に９個のトピックから構成されている。内容面の特徴については、前記のように科学的に実証的かつ帰納的な論旨が明確な構成・筆致であろう（３２～３５頁、１０８～１１３頁、１７０～１７３頁、１８６～１９２頁ほか）。特に個人的に興味を惹いたのは、サツマイモとジャガイモの生物学的相違の解説（５２～５３頁）、ブドウやイチゴの新品種の海外流出（何処の国かは指摘するまでもない：７１～７２頁）、餅の柔らかさの原理と固くならない新品種（１５２～１５６頁）ほかが挙げられる。難しい理論・理屈はないので（多少あっても本旨の理解に影響しない）、一般的読者でも労せず読めると思う。著者が触れていなかったので余談になるが、「グレープフルーツ」（２０２～２０７頁）に見える功罪の“罪”について少し付言したい。別段に「グレープフルーツ」に限らないが（その代表の１つに“納豆”等も投与薬品によっては摂取禁忌となる）、本書では植物（野菜・果物）の健康との関連も趣旨としているところ、この果物は循環器系疾患、血液系疾患の薬剤との摂取禁忌が多いように感じる。具体的には、カルシウム拮抗薬、高脂血症治療薬、催眠鎮静薬ほかであるが、同じ柑橘類のミカン、レモン等は問題とされていない。詳細は厚労省公式サイト、各医療・研究機関の公式サイト等で解説があるので、興味のある方は確認されると良いだろう。